西固巷の通り
DIRECTION & ART

光と影の、曾式美学

光と影を生かした構図、スローモーション、細やかなクローズアップ。曾慶傑監督の画作りは「曾式美学」と呼ばれています。『逐玉』のどの場面も絵のように美しいのは、この監督の美意識があるからです。

造型監督
易小雅イー・シャオヤー
THE DIRECTOR
監督曾慶傑
ツォン・チンジエ
生まれ
1985年4月、広東省仏山市
学歴
広東工業大学(国際経済・貿易専攻、哲学副専攻)
歩み
大学時代にDVカメラで短編を撮り始め、卒業後は「簡単人工作室」を設立して広告や短編映画を制作。2013年に優酷の「青年監督支援計画」に参加し、2015年に初のウェブドラマ『天才J』を発表しました。短劇で頭角を現し、2024年に初の長編『九重紫』、2026年に『逐玉』。2019年から莱可伝媒に所属しています。
受賞
2024年 騰訊視頻 金鵝栄誉 年度優秀監督(『九重紫』)

監督の美意識

短い尺と限られた予算の中でも、画面の質には妥協しない。短劇の時代から、群衆が足りない場面を煙とたくさんの灯籠でにぎやかに見せるような工夫を重ねてきた監督です。初めての長編『九重紫』では、雪景色の美しさが話題になりました。

  • 光と影光の当て方と影の落とし方で、画面に奥行きと感情をつくる
  • 時間を引き延ばすスローモーションとクローズアップで、一瞬の感情を大きく見せる
  • 考証より、写意本物らしさの再現より、東洋の美しさを表すことを選ぶ(監督自身の言葉)
IN ZHUYU

だから、逐玉はこうなった

その美意識が、『逐玉』では5つの画になって表れています。

01
FOOD

湯気と、とろみと、生の肉

料理の場面は、見ているだけでお腹が空いてきます。スローモーションの中で、立ちのぼる湯気、とろりと落ちるたれ、つややかな具材がゆっくりと映し出され、画面越しに温かさと香りまで伝わってくるようです。

肉屋の娘の物語らしく、生の豚肉もたびたび大きく映ります。本来なら生々しいはずの肉が、ここでは驚くほどみずみずしく、美しく見えます。冬の保存食の臘肉(塩漬けの燻製肉)づくりや、肥腸麺・麻辣鍋といった四川・重慶の料理も登場します。

豚肉をさばく長玉
豚肉をさばく長玉(第1話)
02
LIGHT & SHADOW

暗闇に差す、一筋の光

暗い画面の中に、一筋の光が差し込んで、人物の顔や手元だけを照らし出す。そして光の帯の中を、雪がちらちらと舞う。まるでチンダル現象のように、光そのものが目に見える瞬間があります。

雪の夜の出会いや、豚小屋で言正を映したクローズアップは、評論でも名場面として挙げられています(環球網)。

豚小屋の言正
豚小屋の言正(第1話)
03
SCENERY

雪国から、緑の書院へ

中国の大地を見下ろす壮大な空撮。凍てつく雪の林安鎮から、緑に包まれた麓原書院へと舞台が移ると、画面の色ががらりと変わり、見ている気持ちまで、厳しさから優雅さへと運ばれていきます。

雪の中の出会い
雪の中の出会い(第1話)
麓原書院
麓原書院
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04
THE TOWN

西固巷の朝と夜

朝の支度で動き出す路地、昼のにぎわい、灯りがともる夜。西固巷は時間ごとに表情を変え、そこに暮らす人々の活気が画面いっぱいに映ります。

台詞にも、四川・重慶の方言や暮らしに根ざした言い回しが多く使われています。

  • 我滴个先人板板なんてこった
  • 婆娘女房
05
XIEYI

本物らしさより、美しさ

本当の時代劇の暮らしは、きっとこんなに美しくはなかったでしょう。それでも、この作品はとにかく美しい。

曾慶傑監督は、考古学的な再現ではなく、東洋の美しさを「写意」(形よりも心や趣を描くこと)で表すことを目指したと語っています。その考え方がよく表れているのが、謝征の冠です。

物語の幕開けも写意的です。ドラマは秦腔の節回しにのせた影絵劇の一幕から始まり、影絵の女将軍が、豚をさばく娘から将軍へと歩む長玉の運命を先に映し出します。

戎装换却庖刀影,巾帼挥戈向云麾意訳:包丁の影は戦装束へ。女傑が戈を振るい、将軍の旗のもとへ。

武安侯・謝征は、雉の長い尾羽を2本挿した紫金冠をかぶって登場します。この尾羽は「翎子」と呼ばれ、長さは1.5〜2メートルほど。このデザインは張凌赫がゲームの武将の姿を参考に自ら提案し、採用されたものです。造型監督の易小雅によると、翎子をつけた姿は戦いの最中ではなく、戦いのあとの凱旋を表しています。

OTHER WORKS

ほかの作品

同じ監督の美意識は、ほかの作品でも味わえます。日本で配信・放送された作品は、邦題も添えました。

2024・初の長編

『九重紫』

邦題『九重紫<きゅうじゅうし>』

雪景色の美しさで話題になった、曾慶傑監督の初めての長編ドラマ。この作品で騰訊視頻の年度優秀監督に選ばれました。『逐玉』の雪の画が好きなら、まずはこちらを。

2023

『風月変』

邦題『風月変~幸せを願う蝶の恋人たち~』
2023・短劇

『招惹』

2022・短劇

『虚顔』

監督の名前が広く知られるきっかけになった作品です。

2022・短劇

『念念無明』

参考

  • 百度百科「逐玉」(制作背景・小道具デザイン・造型デザイン・言語スタイル)
  • 環球網・北京青年報オンラインの評(百度百科より)
  • 百度百科・中文版ウィキペディア「曾庆杰」(経歴・作品)
  • 映画ナタリー「九重紫」BS初放送の記事(監督の特徴)
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